2026年5月、X(旧Twitter)である投稿が瞬く間に618万ビュー世界中で大きな注目と反響を集め。その内容はシンプルだった――「電動サーフボードは、ジェットスキーを時代遅れに見せる日が来ようとしています。静かで、速くて、楽しくてたまらない」。
この投稿をしたのは、テックニュースのインフルエンサーであるMario Nawfal氏。彼がシェアした23秒間の動画には、海面をスルスルと滑る電動サーフボードの姿が映っていた。それはまるで水面を飛んでいるかのような光景で、視聴者の目を奪うには十分だった。
しかしこの投稿がこれほどまでに拡散された背景には、単なる「新しいガジェットの注目」を超えた、より深層的な何かがある。それは、水上スポーツのパラダイムシフトという歴史的大転換の兆しなのだ。
電動サーフボードとは何か:水面を「飛行」するテクノロジー
電動サーフボード、特に「eFoil(イーフォイル)」と呼ばれるタイプのボードは、従来のサーフィンとは根本的に異なるコンセプトで動く。その秘密は、ボードの下部に取り付けられた「フォイル(水翼)」にある。
フォイルとは、水の中で飛行機の翼と同じ原理で揚力を発生させる構造だ。アクセルを握ると電動モーターが回転し、フォイルが水を後方へと押しのけることで、ボード全体が水面から約60センチほど浮き上がる。一度浮き上がると、抵抗が劇的に減少し、驚くべき静けさで海面を滑走できる。まるで水面を飛行しているかのような体験は、一度乗ったらやみつきになるという人が後を絶たない。
現在の主流モデルの最大速度は40〜50 km/h程度。これはレクリエーション用のジェットスキーと同程度だ。ただし最大の違いは、ジェットスキーがガソリンエンジンか大規模な電動モーターで海面を「打水」しながら進むのに対し、eFoilは水面から浮いた状態で「滑走」するため、波の響きも最小限に抑えられる点にある。そのため、自然豊かな湾や湖でも、騒音や波の影響を周囲にほとんど与えずに楽しめるのだ。
歴史:2011年の発明から、なぜ今ブームなのか
電動サーフボードの歴史は、意外にも決して古くない。最初のeFoilを開発したのは、フランス出身の発明家Guillaume Santoz(ギヨーム・サントー)だ。彼は2011年に最初のプロトタイプを作成し、2013年にHydrofoil(現Fluid Freedom)として世界初の commercially viable なeFoilをリリースした。彼のインスピレーションは、水陸両用の車両や水上バイクの制限への欲求に端を発している。
しかし、このアイデアを一気に主流にしたのが、2014年から2015年にかけて登場したドイツのRastago社だった。Rastago社は、電動サーフボードではなく「電動ジェットサーフボード」に焦点を当てたアプローチで市場を切り開き、その後2016年にはアメリカのFliteboard社が、フライトシミュレーター会社の経験を活かしたeFoilをリリースした。Fliteboardの創設者Eric Sun氏は、もともと飛行シミュレーション企業のCEOであり、その知見を水上スポーツに応用したのが功を奏した。
そして2018年には、スペインのJetsurf社が世界初の電動ジェットスキーをリリース。2023年からはSea-Doo(ボムバルデ)が electric jet ski「Rise」を発表するなど、競合は年々激化している。各社がそれぞれの強みを活かした差別化を図り、現在では価格帯も200万円から1,000万円以上まで多岐にわたっている。
ジェットスキーとの徹底比較:なぜeFoilが「次世代」なのか
ここで、eFoilとジェットスキーの主要な違いを整理しよう。
まず「静粛性」だ。通常のガソリンジェットスキーは、走行中に約90〜100 dB(デシベル)の騒音を発生させる。これは Chainsaw(チェーンソー)に匹敵するレベルだ。これに対して、eFoilの走行音は風切り音程度で、約50 dB以下。つまり、eFoilなら遠くの人々や野生生物に全く邪魔をかけずに楽しめる。これは自然環境が美しい日本では極めて重要なポイントだ。
次に「波の影響」だ。ジェットスキーは常に海面に接しているため、波が高いと ride がかなり荒くなり、転覆のリスクも増える。一方、eFoilは水面から60 cm浮いているため、2 m程度の波であれば全く影響を受けない。つまり、波待ちの必要がなく、常に快適にrideできるのだ。
環境面での優位性も無視できない。ガソリンジェットスキーは、1時間使用で約5〜8 リットル(約350〜560 グラム)のCO2を排出する。電気ジェットスキーでも電力の生成源によりますが、eFoilはバッテリーから直接モーターを回すため、エネルギー変換効率が非常に高い。さらに、油燃料を使わないため、海への漏洩リスクゼロ。
ただし、eFoilの弱点も存在する。最大の懸念は「学習コスト」だ。ジェットスキーはシートに座ってアクセルを捻るだけで走行可能だが、eFoilはバランス感覚が求められる。初心者であれば、2〜3時間の練習を必要とするという報告が多い。ただし、一度バランスを掴めば、実はサーフィンをやるよりも遥かに容易に乗れると多くの体験者が語っている。
また、価格面でもジェットスキーの方がまだ手頃なモデルが多い。エントリーレベルの電動ジェットスキーで200万円前後、中古のガソリンジェットスキーで100万円以下で入手可能だが、eFoilの最低価格帯は250万円程度(日本国内)。しかし、バッテリーの進化とともに価格低下は続いている。リチウムイオンバッテリーのコストは過去10年で80%以上低下しており、2026年現在ではより廉価なモデルが次々と投入され始めている。
市場の未来:2030年までに何が起こるか
eFoil市場の成長は著しい。Grand View ResearchやMarketsandMarketsのレポートによれば、エレクトリック・ウォータースポーツ市場全体は、2024年の約25億ドルから2030年には約60億ドルに拡大すると予測されている。その中でも、電動サーフボードの成長率が最も高い。
その背景には、観光レジャー業界からの需要増加がある。ハワイ、バリ、モルディブ、ドバイなど、世界的なリゾート地ではeFoilレンタル事業が急成長。特に、ハワイでは伝統的なサーフィン文化を持つ島々で、eFoilが「新しいウォーターアクティビティ」として若者を中心に大人気だ。観光客の単価も高く、1時間50〜80ドル程度のレンタル料金が設定されている。
また、技術の進化は加速している。2026年現在、最新モデルのバッテリー航続時間は60〜120分に達しており、充電時間も急速充電対応で約2時間。さらに、2025年以降は「eFoilの距離世界記録」を巡る試みが活発化。オーストラリア・サンシャインコーストの10代の少年が、eFoilによる距離記録の公式チャレンジを実施したというニュースも伝えられている。これは、eFoilが単なるレジャー用品から、競技・スポーツとしての側面も持ち始めていることを示している。
X上の反応:何が人々を熱狂させたのか
Mario Nawfal氏の投稿は、1,351件の返信世界中で大きな注目と反響を集め。この反応を整理すると、大きく3つのタイプに分かれる。
一つは「体験者の称賛」だ。「実際に乗ったことがありますが、もうジェットスキーには戻れません」といった投稿が多く、特に「静けさと滑らかさへの驚き」を強調する声が目立った。あるユーザーは「最初の30秒で世界が変わった。水面を飛行している感覚は、言葉に表せない」と書き込んでいる。
次に「価格への懸念」だ。「乗りたいけど、300万円はちょっと……」。eFoilはまだ高級品であり、普及の最大の障壁は価格であるという声も少なくない。しかし、レンタル体験なら数千円で済むため、「まず乗ってみてから買うかどうか考える」という反応も多かった。
三つ目は「環境意識からの期待」だ。「海洋汚染の原因であるガソリンエンジンに取って代わる存在として、本当に期待している」といった投稿が見られ、特に自然保護意識の高い層から関心を集めている。日本のような美しい海に恵まれた国では、この点が特に強調される傾向にある。
私は、これらの反応を通じて感じるのは、eFoilが単なる「新しい乗り物」ではなく、「水上スポーツのあり方そのものを変える可能性がある」という点だ。静寂性、環境負荷の低さ、そして何より「飛行する体験」――これらの要素が揃った製品は、これまで存在しなかった。
特に重要なのは、eFoilが「伝統的なサーフィン」を否定しない点だ。むしろ、サーフィンの楽しさをより多くの人に広める可能性がある。波を待たずに ride でき、子供から高齢者まで楽しめるため、サーフィンの人口増加に寄与するかもしれない。私はこれは非常にポジティブなシナリオだと思う。
日本における可能性と課題
日本は世界でも有数の美しい海岸線を持つ国だ。しかし、一方で水上バイクの騒音問題は各地で深刻だ。伊勢志摩サミットの際にも、水の騒音問題が話題になったほどだ。
eFoilは、この課題に対する一つの解答になり得る。騒音規制が厳しい港湾や湖沼でも、eFoilであれば問題なく利用できる可能性がある。実際、日本の一部のリゾート施設ではすでにeFoilのレンタルが開始されており、その反応は好調だという。
ただし、日本のような島国で「海へのアクセスが限られている」状況では、eFoilの普及にはいくつかの課題もある。最大のものは「保存場所」だ。ボードの大きさは長さ1.6〜1.8メートル程度なので、一般的な住宅のガレージやベランダでの保管は難しい。また、海水使用後のメンテナンスも重要で、淡水での洗浄と乾燥が必須だ。
結論:水上スポーツの新しい時代は、静かに始まっている
Mario Nawfal氏の投稿が示したのは、単なる新しいガジェットの紹介ではない。それは、2011年のフランスでの小さな実験室での発明が、15年後に世界中の注目を集めるプロダクトに成長したという物語の、最新エピソードだ。
eFoilはジェットスキーを「淘汰する」というよりは、むしろ「水上スポーツの選択肢を増やす」という形で市場を拡大していくだろう。しかし、その静寂性と環境への優しさを考えれば、将来的にはガソリンジェットスキーに取って代わる存在になる可能性は十分にある。バッテリー技術の進化と価格低下が加速するにつれて、この移行はさらに加速するだろう。
もしあなたが一度もeFoilに乗ったことがないのであれば、まずレンタルを試してみることをお勧めする。海面を滑る体験は、あなたの水上スポーツの常識を根底から覆すかもしれない。そして、その静かな革命の最前線にいること自体が、これからの時代の象徴なのだから。


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