従来の3Dプリンターは、下地から順番に素材を積み重ねていく「積層造形」が基本原理だった。その方式には常に、支持体(サポート構造)の必要という課題が付きまとってきた。複雑な形状になればなるほど支持体の処理に手間がかかり、仕上げ工工程の負担は増大する。そんな3Dプリントの常識を根本から覆す技術が、アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)のSelf-Assembly Labから生まれ、すでに実用化のフェーズに入っている。
その名も「Rapid Liquid Printing(急速液体プリント、略称:RLP)」。液体状の素材をゲル Suspension(分散液)の中に直接注入し、3次元空間上で物体を「描く」ように形成するこの革新的なプロセスは、支持構造を不要にし、数分で大型の製品を作り上げ、しかもリサイクル可能な素材を使用するという、これまで3Dプリントが抱えていた三つの欠点――「遅さ」「規模の制限」「素材の質の低さ」を同時に解決しようとするものだ。
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この投稿は世界中で大きな注目と反響を集め、多くの人々の関心を呼び寄せている。なぜこれほどの反響を呼んでいるのか。その答えは、RLPがもたらす可能性の深さにある。
ゲル Suspension:液体に浮いた3次元キャンバス
RLPの核心は、ゲル Suspensionという媒質の中に存在する。基本的なプロセスはシンプルながら革新的だ。まず、タンクの中にゲル性の懸濁液を満たす。このゲルは、液体に対して適度な支持力を持つ半固体であり、液体状の素材を注入された瞬間、その形状を3次元空間で「固定」する役割を果たす。次に、ノズルからゴム、シリコン、フォーム素材などの液体材料をゲル内部に注入し、まるで立体空間上で自由に「描く」ように形状を形成していく。素材はゲルの中で固化し、最終的にゲルから取り出すことで完成品が得られる。
この仕組みの最大の利点は、重力の影響を受けないことだ。通常の3Dプリントでは、下地から上に積み重ねるため、つり下げ部分や複雑な形状には支持体が不可欠だった。しかしRLPの場合、ゲルが全方位から素材を支えるため、どんな複雑な形状でも支持体なしで形成できる。これは、造形可能な形状の自由度を飛躍的に拡大することを意味する。
Self-Assembly Labのチームはこう説明している。「タンクの中で何かを生み出すような感覚で、サイズに制限はありません。タンクの大きさ次第で、どんな巨大なものでも造形できます」と。
MIT Self-Assembly Labの詳細:selfassemblylab.mit.edu
3Dプリントの三つの壁を崩す
3Dプリント(積層造形)技術は過去10年で飛躍的に進化したが、製造業のメインストリームとして広く普及するには三つの大きな障壁があった。第一に、従来の射出成型や鋳造、切削加工に比べて造形速度が遅すぎること。第二に、小型の部品造形には優れているものの、大型製品の造形には物理的に限界があったこと。第三に、使用可能な素材が限られており、工業グレードの素材と比較すると品質面で劣る部分があったこと。
RLPはこの三つの課題すべてに対処することを目的としている。まず速度面では、大型の製品であっても数分で造形が完了するとされる。これは積層方式では考えられない速度だ。規模面では、タンクさえ大きければ家具一台分 entirety の製品も造形可能であり、実際にSteelcaseとの共同開発では3Dプリントされたテーブルの実証が行われている。素材面では、業界標準のゴム、シリコン、フォーム素材を使用でき、さらに白金硬化型のシリコンを使用する場合はリサイクルも可能。
2024年10月には、フランスのファッションブランドCoperniが、RLP技術で造形したシリコン製の「Swipe Bag」をディズニーランド paris で開催されたファッションショーで披露した。このイベントは、DisneyとCoperniのコラボレーションによるもの。ディズニーの世界観、特に「リータ・ザ・リトル・マーメイド」の海洋テーマをオマージュする形で、液体の媒質の中で造形するというコンセプトが演出された。Coperni創設者のArnaud Vaillantは、「タンクの中で何かを生み出すような感覚で、サイズに制限はありません」と語っている。
スピンオフ企業RLPと700万ドルのシリーズA
この技術は学術研究の段階で終わったわけではない。2024年5月、MITのスピンオフ企業であるRapid Liquid Print(RLP)は、HZG Groupをリード投資家とする700万ドルのシリーズA資金調達を実現した。BMW i VenturesやMassMutualのMM Catalyst Fundも出資に参加し、HZG GroupにとってRLPは初めてとなる米国投資となった。
CEO兼共同創設者のSchendy Kernizan氏は、HZG Groupについて「金属3Dプリントの産業規模での導入で基準を設けた実績を持つ投資家であり、RLPのテクノロジーの潜在的価値を認識している」と評価。この資金を基に、生産体制の拡充、人材の拡大、および新たなビジネス領域の構築を進めている。
当初はインテリアデザインの分野、特に3Dプリント家具を目指していたRLP技術だが、現在は医療デバイス、シューズ、ホームグッズ、航空宇宙、自動車部品など、複数の産業分野に応用を広げている。医療用インプラントや微細部品の製造への応用が特に期待されており、患者個別の適合性が必要な医療機器のパーソナライズド製造において、大きな可能性を秘めている。
3D Printing Industryによる報道:3dprint.com
4Dプリントと自己組織化:MIT Self-Assembly Labのビジョン
RLP技術をより深く理解するには、それを生み出したMIT Self-Assembly Labの哲学的なビジョンに目を向ける必要がある。ラボの創設者であるSkylar Tibbits氏は、単なる「造形」の枠を超えた概念を提唱している。彼が追求するのは「4Dプリント」――時間とともに形状や機能が変わるスマート素材だ。
Self-Assembly Labの研究分野は多岐にわたる。液体金属プリント、自己組織化球、DNAプリント、プログラマブルマテリアル、ジャミングボディなど、-materialsの自己集合と自己組織化を基盤とした次世代製造技術の最前線にある。RLPはこの研究叢の一環として生まれ、工業レベルの実用化に向けた具体策として誕生した技術なのである。
Tibbits氏のビジョンは、単に「物を作る」ことではなく、「物に生命を与える」ことにある。ゲルの中で液体を注入するプロセスは、細胞が形成される生物学的プロセスに喩えられることがあり、物質が自発的に秩序ある構造を形成する現象は、生命の起源そのものに通じるものがある。
Xの声と私の見解
この投稿に対するX上の反応は興味深い。286万回の表示という圧倒的なリーチに対して、159件という返信数はおそらく「話題性は高いが専門的な内容のため深掘りした意見は限定的」という構図を示している。リポスト1800以上、いいね7900以上という数字は、技術の新奇性に対する人々の強い関心を裏付けている。
技術系アカウントからの反応としては、「支持体が不要というのは革命だ」「医療分野での活用が期待できる」「Coperniのバッグは実際に着用の可能性があるのか」といった実用的な視点が目立った。一方で、「まだ実証段階ではない」「コストは見えない」といった懐疑的な声もあった。
私はこの技術の本質的な革新性は「製造の民主化」にあると考えている。従来、複雑な形状の製品を作るには高額な金型や専門技能が必要だった。RLPのような支持体不要の造形が一般化すれば、設計の自由度が飛躍的に高まり、小ロットのパーソナライズド製造がコスト competitively に可能になる。これは医療分野(患者個別のインプラント)から家具・ファッションまで、あらゆる産業に波及効果をもたらすだろう。懸念材料としては、工業的な耐久性評価や大量生産時のコスト競争力がどこまでクリアできるかという点だが、700万ドルの投資と既存投資家のバックアップは、技術の成熟に対する市場の期待を反映している。
結論:製造業の「液体革命」は始まった
3Dプリントの次のステージは、固体から液体へ、積層から注入へ、サポートからフリーフォームへとパラダイムシフトしつつある。MIT Self-Assembly Labが提唱するRapid Liquid Printingは、単なる新技術ではなく、製造のあり方そのものを問い直す契機である。ゲルという媒質の中に物体を「描く」――このシンプルなプロセスが、医療、家具、ファッション、航空宇宙など、多様な産業の未来を切り開く鍵になる可能性は十分にある。支持構造が不要になれば、デザインは重力の制約から解放され、創造のフロンティアはこれまで想像もできなかった方向へと広がっていく。


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