「大局将棋って知ってる?」Claude Fable 5が36×36盤のAI対局デモを5時間で完成させた理由

生成AI

AIの「遊び心」が、かつての将棋マニアの妄想を現実にした。

2026年6月11日、X(旧Twitter)上で衝撃的な投稿が話題を呼んだ。AIエンジニアの癒色えもさんが、先週公開されたばかりのAnthropic最上位モデル「Claude Fable 5」に、ただ一言投げかけたのだ。

「観戦するだけのデモ作って。速さとか強さとか変えられるようなの」

Claude Fable 5の返事はこうだった。

「おかのした」

そして5時間。Claude Fable 5は36×36マス、各側402枚の駒を使う世界最大級の古将棋「大局将棋」の観戦デモを完成させた。そのトークン消費はMax 5プランの月額制限の約20%。つまり、5時間分の対局シミュレーションで、数万円単位のAPIコストがかかった可能性が高いのだ。

話題となっているのがこちらの投稿です

Claude Fable 5とは何か — Mythos級の正体

Claude Fable 5(フェーブル・ファイブ)は、2026年6月9日にAnthropicが一般公開した最新のAIモデルである。このモデルが注目を集める理由は、それがAnthropic史上最も強力なモデルファミリー「Mythos級(ミュトス・クラス)」に属しているからだ。

Anthropicのモデルラインナップは従来、以下の3段構成を取っていた。小型で高速な「Haiku(ハイク)」、バランス型の「Sonnet(ソネット)」、そしてリゾーニング(推論)に特化した高価格帯「Opus(オーパス)」だ。Claude Fable 5は、このOpusの上に新たな最上位ティアとして設置されたモデルであり、第5世代のファミリーの先頭を切るモデルとなる。

技術的な興味深い点は、Claude Fable 5と限定公開モデル「Claude Mythos 5」が、実質的に同じ基盤モデルだという事実だ。両者の違いは安全対策の有無だけで、Mythos 5は政府機関やサイバーセキュリティのパートナーにのみ提供されている「安全装置を外した版」と考えられる。

ベンチマーク結果を見ても、その性能の高さは疑いようがない。コーディング能力を測るSWE-bench VerifiedではClaude Fable 5が95.0%を記録し、Opus 4.8の88.6%を大きく上回っている。さらに空間把握能力を測るSpatial Reasoningでは、Opus 4.8の14.5%に対して38.6%と、約2.6倍のスコアを叩き出している。CursorBenchという最新のモデル比較ベンチマークでも最優秀スコアを記録しており、特定領域に限らず総合的な能力がトップクラスであることを示しているhttps://www.anthropic.com/news/claude-3-fact-sheets

なぜ「大局将棋」なのか — 世界最大の将棋の謎

今回の投稿で最も目を引いたのは、Claude Fable 5が選ばんだ題材が「大局将棋」だった点だ。これは単なる将棋のバリエーションではなく、盤面と駒の数において人類が設計した将棋の極北とも言える存在である。

大局将棋(たいきょくしょうぎ)は、将棋の古将棋の一つで、知られている将棋の中で最も駒数と盤面が大きい。自軍・敵軍それぞれ402枚、合計804枚の駒を使い、盤面は36×36マスという超大きな広がりを持つ。チェスで有名な8×8マスの18倍、中将棋の12×12の2.25倍という規模だ。

このゲームがどのような存在かは、実際に遊ばれていたかどうかすら不明という事実に表れている。対局に何日でもかける規模であり、遊戯としての面白みよりも「いかに大きな盤を作れるか」というマニアックな挑戦の側面が強かったと考えられている。江戸時代には将棋家元の大橋家が泰将棋・摩訶大大将棋などの大型将棋を集約し、さらに多数の独自駒を追加することで、大局将棋が完成したと推測されているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%B1%80%E5%B0%86%E6%A3%8B

大局将棋が世に知られるようになったのは、1990年頃のことだ。関西将棋会館内の将棋博物館で未整理資料の中から、大橋家の古文書『大局将棋駒』が発見された。この古文書には駒の名称、配置の図、そして駒の動きが点で付記されているのみで、詳しいルールは記載されていなかった。ルールが解釈されたのは、遊戯史研究家の梅林勲氏によってであり、大局将棋について詳述された最初の文献は1997年に刊行された『世界の将棋』(将棋天国社)だった。

つまり、大局将棋とは「ルールが完全には伝わっていない」「実際に遊ばれた形跡がほぼない」「発明者も年代も不明」という、謎に包まれたゲームだったのである。それをClaude Fable 5が、たったの数行の指示で実装可能だったことは、AIのプログラム生成能力の飛躍的な進化を示す事例と言える。

5時間で20%の制限 — コストの現実

投稿によると、Claude Fable 5が大局将棋のデモを完成させるのに要した時間は約5時間、消費したトークンはMax 5プランの月額制限の約20%だったという。これがどのようなコストを意味するか、Anthropicの公式料金体系から推算してみよう。

Claude Fable 5のAPI料金は、入力100万トークンあたり10ドル、出力100万トークンあたり50ドルである。これはOpus 4.8の価格のちょうど2倍にあたる。50万トークンのコンテキストを1リクエスト送るだけで、入力だけで5ドルのコストが発生する計算だhttps://dev.classmethod.jp/articles/what-is-claude-fable-5/

最大500万トークンのコンテキストウィンドウを持つClaude Fable 5が、36×36盤×804駒の複雑なゲームルールを記憶し、対局をシミュレーションするには、膨大な数のトークン消費が予想される。盤面1マスあたり1トークンとしても、36×36=1296マスの状態を全てトークン化するとすれば、1ターンで数千トークン、1ゲーム数百ターンで数万〜数十万トークン、そして複数のシミュレーションを試行錯誤しながら行えば、数百万トークン規模に達する可能性もある。

20%の制限ということは、Max 5プランの総制限がどれくらいかにもよるが、仮に月額制限が数百万〜数千万トークン規模だとすれば、5時間相当于たりとも相当な額のAPIコストがかかったことになる。この「トークン無駄遣い」に、癒色えもさんは6月11日の前置きポストで「私もFable 5のトークン無駄遣いしてみよ 何にしよっかな」と述べており、その意図的に高額な実験を楽しんでいたことが窺える。

なぜ日本ではこの議論が重要なのか

日本の読者にとって、このニュースは単なる「AIがすごい」という話ではない。将棋は日本発のゲームであり、その最大版と言える大局将棋をAIが実装した事実は、日本の文化的遺産と最先端AI技術が交差する象徴的な出来事だ。

日本ではAIと将棋の組み合わせがすでに深い歴史を持っている。2017年に将棋AI「ponanza」が職業棋士を倒して大きな話題となり、その後AI対局は一般にも広く認知された。しかし当時のAIは通常の将棋(9×9、20駒)を相手にしており、大局将棋のような36×36盤・804駒の超巨大ゲームを処理できるAIは存在しなかった。Claude Fable 5による今回の実装は、AIの処理能力が単なるゲーム対戦を超えて、複雑なゲームシステムの生成自体を可能にした重要なマイルストーンと言える。

また、日本のゲーム文化の文脈で見れば、大局将棋のような「遊びにくいゲーム」をAIに実装させる行為自体が、人間には不可能な規模のゲーム世界を構築するAIの可能性を示している。将来的には、AIが独自の変種将棋を設計し、それをプレイ可能な形で出力する時代が来るかもしれない。日本の将棋文化は、このようなAI時代の新しい可能性の土台になる可能性を秘めている。

X上の反応と私の見解

この投稿は世界中で大きな注目と反響を集め、大きな反響を呼んだ。X上の反応をまとめると、以下のような傾向が見て取れる。

まず多かったのは「驚き・感嘆」の声だ。わずか数行の会話で、しかも20秒程度のやり取りだけで、複雑なゲームのデモが完成したことに多くの人が驚きを示していた。特にClaude Fable 5が「おかのした(了解した)」という極めて簡潔な返事で即座にタスクを理解した点に、AIの進歩への敬畏を感じる声が多数あった。

次に「コストへの驚き」も目立った。5時間で月額制限の20%を消費するという事実を知り、「これだけで数万円?」「トークンが燃えている音が聞こえる」といった、高額さへの震撼を示す投稿が相次いでいる。Claude Fable 5がOpusの2倍の価格であることを知った上での「無駄遣い」を楽しんでいる癒色えもさんの姿勢に対して、「これはもう趣味の域を超えている」「AIの遊び方が違う」という声が上がっていた。

一方で、「大局将棋をAIに実装させる意味は?」という実用的な疑問を投げかける声もあった。実際に遊ばれた形跡のないゲームをAIが作ったとしても、実用性はどうなのかという指摘だ。これに対しては「AIに新しいゲームをデザインさせる実験の一環」「複雑なゲームルールの処理能力を測るベンチマークとして使える」といった補足回答も見られた。

私の見解を一言で言えば、これはAIのパフォーマンスを示すベンチマーク以上の意味を持つ出来事だ。Claude Fable 5が大局将棋の観戦デモを5時間で完成させたことは、単に「AIがプログラムを書ける」だけでなく、「AIが人間が設計した複雑なシステムのルールを理解し、それを動作するコードに変換できる」ことを実証している。さらに重要なのは、そのタスクの選択が「実用性」ではなく「好奇心」に基づいていた点だ。癒色えもさんは「何にしよっかな」と自問し、大局将棋という一見非実用的な題材を選んだ。この「実用的でないことをあえてやる」という行為こそが、AIの能力を本当に引き出す方法であり、AI時代のクリエイティブな使い方としてモデルケースになり得ると私は考える。

よくある質問

Q. Claude Fable 5とは何ですか?

A. Claude Fable 5は、Anthropicが2026年6月9日に一般公開した最上位ティアのAIモデルです。Mythos 5と同じ基盤モデルに基づいていますが、一般公開用に追加の安全対策が施されています。入力100万トークンあたり10ドル、出力100万トークンあたり50ドルという価格で、Opus 4.8の2倍のコストですが、SWE-bench Verifiedで95.0%というコーディング性能を記録するなど、総合的な能力はこれまでのどのモデルを上回っています。

Q. 大局将棋とはどのようなゲームですか?

A. 大局将棋は、36×36マスの盤面と、各側402枚(合計804枚)の駒を使う将棋の最大級の変種です。江戸時代に大橋家によって設計されたと考えられていますが、実際に遊ばれていたかは不明で、ルール自体も1990年に古文書が発見されてから研究家によって解釈されました。盤面の広さと駒の数の多さから、実際に対局を行うには数日乃至数週間を要すると考えられています。

Q. Max 5プランとは何ですか?

A. Max 5はClaude Fable 5のサブスクリプションプランの一つで、月額制限付きでClaude Fable 5を無制限に使えるサービスです。投稿で言及された「5時間制限20%」は、このプランの月額トークン制限に対して、5時間分の使用で約20%を消費したことを意味します。Claude Fable 5の無料試行期間は2026年6月22日までとされています。

Q. なぜClaude Fable 5は大局将棋をすぐ作れたのですか?

A. Claude Fable 5は、従来のAIモデルを大きく上回るコード生成能力と、500万トークンという広大なコンテキストウィンドウを持っています。大局将棋のルールは古文書に点の記号で示されており、構造が明確であるため、AIがこれを読み解いてプログラムに変換するのが比較的容易でした。また、Fable 5は「数日間にわたる複雑なタスク」を得意としており、5時間という長時間の処理能力も本領発揮しました。

Q. 大局将棋の観戦デモを実際にプレイできますか?

A. 癒色えもさんが作成したデモの詳細な公開状況については未確認です。投稿では「観戦するだけのデモ」と述べられており、完全にプレイ可能な対局形式なのか、それともAI同士の対局を人間が観察するだけの形式なのかは、作者の公開状況によります。現時点では、GitHubや作者的なプラットフォームでの公開が期待されますが、具体的な情報は作者のnote.comやYouTubeチャンネルで確認できる可能性があります。

まとめ — AIが示した「遊び」の可能性

癒色えもさんの投稿と、Claude Fable 5による大局将棋デモの実装は、AIの能力がどこまで進化し、どこまで「遊び」に使えるのかを示す一つの里程碑だ。6月9日に公開されたばかりのモデルを使い、2日間で世界最大の将棋の観戦デモを完成させる。そのコストは月額制限の20%、つまり相当な額のAPI費用がかかったことは間違いない。

しかし、この「無駄遣い」こそがAIの真の価値を引き出す方法なのかもしれない。実用的なタスクのためにAIを使うことは重要だが、好奇心と遊び心から生まれる実験こそが、AIの潜在的な能力を本格的に引き出すケースが多い。大局将棋という謎に包まれたゲームをAIが実装したことは、AIが単なる道具ではなく、「創造のパートナー」としての可能性をさらに示したと言える。

無料試行期間が6月22日までというClaude Fable 5。その期間中に、さらに面白い「トークン無駄遣い」が投稿されることを期待してやまない。

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